009 インド建築の旅(6)

アーメダバード中心部からはずれること30分、ルイス・I・カーン設計のインド経営大学はごった返すインドの喧噪とは無縁な所にある。カーンの建築に身を置くのは2回目となる。1回目はフィラデルフィアにあるエシュリック邸という住宅だったため、残念ながら中に入る事はできなかった。

今回は大学ということで、障害なく敷地内・建物内を自由に歩き、空間を味わうことができるはずだったが、週末のため大学は休校。タイトな旅スケジュールのため、各都市を訪れる曜日を調整をするのはなかなか難しい。そこでインドに来てから、いつものお決まりとでも言えそうな一悶着をしたのだが、今回はパスポートを守衛室に預けるということが決手となり見学を許された。見知らぬ人にパスポートを渡すことはギャンブル的な要素を含むが、結果的に、見学後しっかりとパスポートは手元に戻り、今回の賭けは勝った。007-01 インド経営大学1

007-05 インド経営大学5

赤煉瓦の組積壁に放たれた大きな丸い開口は怖いほどに存在感があった。建物の中は外の気温が40度を超える中、その大きい穴から心地良い風が入ってきて涼しい。うだるような暑さの外を歩いてきた私たちにとってはまるでオアシスのよう。

007-02 インド経営大学2

007-04 インド経営大学4

007-04 インド経営大学5

講義のない週末、学生の姿はなくがらーんとした雰囲気の中、カーン建築をのんびりと散策する贅沢な時間となった。

続いてサンスカル・ケンドラ美術館を訪れる。この旅中何度となく見てきたこのピロティでコルビュジェのそれと分かる。長い時を経ることで素敵に年月を重ね、熟成されたバーボンの薫りやコクが増すよう、建築も深みや重厚感が増すこともあれば、ただ風化して朽ち果てていくこともある。それはもちろんもともとの設計や施工の質の影響が大きいことは言うまでもないが、メンテナンスもまた同じく重要だ。ここに身を置いて感じたのは、長い間放置されていたんだな、ということ。

007-05 サンスカル・ケンドラ美術館1

007-07 サンスカル・ケンドラ美術館4

007-06 サンスカル・ケンドラ美術館2

だが一つ一つのディテールや素材の使い方、空間計画を見ていると、そこには西欧ではないインドという場所で、当時他がなし得なかったことに挑戦した痕跡がいくつも見られ、その底に眠る鬼気迫るものは生きている様に感じられた。成功か失敗かという二択では計り得ないものと対峙し、複雑な心境になる。

007-07 サンスカル・ケンドラ美術館3

007-07 サンスカル・ケンドラ美術館5

コルビュジェがインドで都市計画や多くの建築に携わった際、現地で指揮をとる弟子が不可欠だった。バリクリシュナ・ドーシもその一人だ。現在ではインド近代建築を創った一人と言われているが、そのドーシ設計のフセイン・ドーシ・グファがこれ。思わずピッコロ大魔王の宇宙船を思い出してしまうような形をしている建築。ギャラリー、瞑想空間、そして憩いの場的多目的空間とでも呼べるような使われ方をされているらしい。実際に使われている風景に興味をそそられる空間。

007-08 フセイン・ドーシ・グファ1 007-09 フセイン・ドーシ・グファ2 007-10 フセイン・ドーシ・グファ3

中は有機的な形状の連続で、大きな生き物の腑の中にいるような非日常的な空間が続く。

そして日が暮れる前に、ショーダン邸へと急ぐ。

がこのショーダン邸が曲者だった。個人住宅という、アポも取らず勝手に訪れる場所ではないことはもちろんなのだが、どうも立地している場所がかなり分かりにくいところ。オートリキシャを捕まえ、住所を伝えて向かってもらったのだが、着いたのは病院。運転手いわく、住所の場所に到着しているという。通りに屋台を出して営業している人にショーダン邸を知らないか、片っ端から聞いていくが、なかなか皆知らないようで、困った表情を浮かべる。さてどうしたものか。その時、オートリキシャの運転手が、ある提案をしてくれた。知り合いにジョニーという街に詳しいガイドがいるというのだが、電話をして聞いてやるという。何か期待を持てそうな話ではないか。早速、見つけた屋台で電話を借りる。運転手はジョニーと親しそうに電話で話をしていたが、急にジョニーが話をしたいらしいと受話器を渡された。

「やぁジョニー、協力してくれてありがとう。ショーダン邸に行きたいんだが、知ってる?」

「コルビュジエの建築かい。もちろん知ってるさ。ただ分かりにくいところにあるぞ。そばに病院があるのだがわかるか?」

「病院?さっきそこに行ったと思う」

「そうか、その裏にあるんだ、私有地を通っていくんだ。」

分からないのも無理はなさそうだ。

「そこには入れるの?」

「わからない、でも入れるかもしれないから行ってみるといい。運転手に行き方を伝えておくよ。」

「ありがとう」

そして運転手に行き方を説明してもらい、さっきの病院に向かう事にした。

ショーダン邸は確かにそこにあった。

007-12 ショーダン邸1 007-13 ショーダン邸2

ショーダン邸は、現実に今も住まわれている方のいる現役の住宅だ。正面はロータリーのようになっている。当たり前のことだが、オープンハウスや知人宅でもない限り、住宅の見学はなかなか難しい。今回も内部見学は出来ず、外から眺める事しか出来なかったが、それは仕方がない。

建築はコンクリート打放しを構造体とし、言ってみれば砂利とセメントの塊でできているわけだがこの軽やかさ。やはり住宅のスケールだと各部のサイズが身体感覚に近く、自然と感じ取れる物がある。使用人が丁寧に庭を管理している姿が印象的だった。

2 thoughts on “009 インド建築の旅(6)

  1. 中村@丸善出版株式会社と申します。唯今,『激甚災害事典』(北嶋秀明著,今夏刊行予定)という本の編集をしていますが,本書にグジャラート地震という項目があり,冒頭のアーメダバードの紹介で「インド経営大学」が出てきます。貴ブログのルイス・カーン設計のレンガ組積造の写真(赤煉瓦の組積壁に放たれた大きな丸い開口は怖いほどに存在感があった。という解説の下)を転載させていただきたくお願い申し上げます。写真の下に出典として「マルC関口太樹+知子建築設計事務所」と明記します。
    よろしくご許可賜りますようお願い申し上げます。

  2. 関口様
    はじめまして
    ブログを拝見いたしまして参考にさせて頂きました。
    有難うございます。
    明日からアーメダバードに行くのですが
    ショーダン邸の場所が分かりません。
    申し訳けありませんが、住所または、目印となる
    建物を教えて頂けませんか?
    よろしくお願い申し上げます。

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