002 インド建築の旅(1)

2013年4月24日 AM 2:00、上海経由の長いフライトを終え、インドの首都デリーに降り立った。

AM 2:00 という真夜中にも関わらず、インディラ・ガンディー国際空港は多くの人で賑やかだった。思ったよりきれいだ。この時点でこれから遭遇するインドの果てしないカオスの世界を想像するのは難しい。

AM 6:00、早朝の地下鉄に乗り空港からデリー中心部に移動した。

0002 ニューデリー駅

まずは宿をみつけよう。

唯一持ってきた旅行情報誌「地球の歩き方」をぱらぱら開き、多くの宿があるというメインバザール通りに向かう事にした。

0003 デリー駅

歩き方に乗っている大雑把な地図によると、メインバザール通りはこのデリー駅の反対側のようだ。だがデリー駅は非常に大きい。広大な駅の反対側にはどうやっていったらいいんだろうと考えてしまう。

そんな時、おっちゃんが声をかけてきた。

「メインバザールに行きたいのか?」

「そうだ」

「今はフェスティバルをやっているから、メインバザールには許可証がないと入れないよ。許可証はもっているか?」

「えっ、そうなの。持ってないけど」

「そしたらまずインフォメーションセンターに行って許可証をとってきな。俺がオートリキシャーの運転手にインフォメーションの場所を言ってやるからそれに乗っていきなよ」

「いや、やめとくよ」

「メインバザールに行きたいんだろ?インフォメーションに行かないと行けないぜ!」

「宿を探したいだけだから、メインバザールにいければいいよ」

「だから許可証がないと入れないぜ、インフォメーションはオートリキシャーで10分くらいだから乗っていきな」

「やめておくよ」

「なんでだよ」

「やっぱりやめておくよ。」

「けっ、そうかい。じゃぁな」

「・・・」

怪しいな。

着いたばかりということもあって、すんなり受け入れられないでいると、次々といろいろな人が声をかけてくる。不思議なことに、皆決まって似たようなことを言ってくる。同じような問答を繰り返すうちに「きっとこれのことだな」と思った。

インドに旅立つ前、インターネットで旅行者ブログをいくつか見てきていた。デリーではインフォメーションセンターという名の旅行代理店に連れて行かれて、ぼったくりの値段で旅行ツアーの押し売りをされることがよくあるという。

だが、駅が大きすぎる事もあって、どうやって向こう側に行けばいいのか分からない。この辺の拡大地図も持っていない。早朝でお店もあまり開いていない。やはり誰か人に聞くしかないのだろう。

「お前さん、メインバザールに行きたいのか?」

またおっちゃんが声をかけてきた。

「そうだ」

「メインバザールは今フェスティバルをやっているから許可証がないと入れないぜ。許可証を持っているか?」

またか。

「もういいよ、その話は。メインバザールに行きたいんだ」

「だからフェスティバルやってるんだ。信じないのか?」

「ああ」

「新聞を見てないのか。フェスティバルって書いてあるだろ。見てみろよ」

「ほんとかいな」

「じゃあ、駅の人に聞いたらどうだ!」

そういって、そのおっちゃんは駅の案内室から駅員らしき人を連れてきた。

案の定、駅員らしき人も同じ事を言う。

これではらちがあかない。

駅に入って向こう側に通してもらおう。そう思って、駅の中に入ろうとすると、その駅員らしき人が

「列車に乗らないのに駅の中には入れない。だから許可証を取ってこい。じゃあ、俺がオートリキシャーと交渉して安くインフォメーションセンターに行くように言ってやるから」

「・・・」

「ほら、このこれに乗っていきな」

「もうわかったよ。乗るよ」

好奇心半分あきらめ半分、結局乗ってみる事にした。

本当にインフォメーションセンターで許可証がいるのかな。まさか。

運転手はゆっくりゆっくりとオートリキシャーを運転していく。

0004 バイクタクシー

どの道を通ったのか記憶するため、まわりをキョロキョロしながらオートリキシャーに揺られていく。

言っていた通り10分くらいで目的地に到着した。それほど遠くに来ていないな。

歩いても戻れる距離だろうなんて思いながら、下りて建物を見る。

そこには旅行代理店らしき看板、中はまさにそれらしき設え。

明らかに旅行代理店だ。やっぱりだまされたのだ。

運転手は、

「建物に入って話をしてこい」って言う。

でも入らない。やめておこう。ぼったくりツアーに入らされるだけだ。

これからどうするべきか。旅でしてはいけないといわれる一つにロスポジ(ロストポジションの略称:自分がどこにいるのか把握していない状態のこと)に近いではないか。

と思えば、間髪入れず店の前でも次々と声がかかる。

「お前さん達、だまされてここにきたんか。あのオートリキシャーはだめだ。俺は信用できるぞ。どこに行きたいんだ?」

「もうわかったから、少しほっといてくれ」

そんなやり取りをしているうち、気づいてみるといろんな外国人ツーリストが次々とオートリキシャーに乗って集まってくる。みんなデリー駅から来ているようだ。

凄いな。なんてところだ。

日本人らしき私たちを見て、連れて来られた外国人ツーリストが、

「これからどうするつもりだい?ここどこだかわかるかい?どうしようか。」なんてツーリスト同士の妙な連帯感があったりする。

ここからさらに違うオートリキシャーに乗って移動していく外国人もいたが、ここではもう信じられる人はいないなと思い、私たちは駅の方へ歩いて戻る事にした。道中も至る所で声をかけられては似たようなやり取りをひたすら繰り返した。唯一助かったのは小さな八百屋さんの店主に駅がどこか聞いたときに、デリー駅に行く列車が停まる近くの違う駅を教えてくれたこと。これは本当だった。

そしてその駅から列車に乗り、また元いたデリー駅に戻ったのだ。

スゴロクで言うまさに「振り出しにもどる」だ。

時間はすでに10:00。

また同じ風景だ。

この後、信じられる人を見つけるまでひたすら人に道を聞き、歩いてメインバザール通りにたどり着いたのは11:00。何人の人に道を尋ねたか検討もつかない。

0005 メインバザール

宿を決める事ができたのは12:00頃。このメインバザール通りを歩きながら、宿の客引き達と似たような会話をし続けたことは想像の通りである。

インドの旅はこうして始まった。

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